*** 行方不明?編
*** 彼女が病院を退院して1か月程が経った或る日の夕方…九州の自宅に一本の電話が入った。
彼女の旦那さんからだった。
…当時私は、本山の宗務総長になった父親の、身の回りの世話を定期的にしながら、診療所に通い、また実家や本山の行事に合わせて、母親と交代し、九州へ帰ると言う複雑な業務?を繰り返した生活をしていた。…言うなれば、九州と京都を行ったり来たりしていた。
その電話には「
妻が昨日から行方不明で、今彼女のアドレス帳を見て片っ端から連絡をしています。…妻を知りませんか?」
「えっ!行方不明?」
…彼女が退院して間もなく、彼女から電話を貰った。
その時の内容が、
「また、自分を傷つけちゃった。」…あっけらかんとした口調で言う。
「へっ?なに?どうしたの?」
「何か、生きているのが罪なんかじゃないのかなって、思えて来て…
気が付いたらハサミで足を刺していた。」
「何?それっ!」
「今ね、主人の実家なの。ちょっと病気(鬱病)が悪化してしまって、私から目を離せないから義母がいつも傍にいてくれてる。今は調子良いんだけどね!」
「良いい?もっと自分を大切にして!…じゃないと、友達辞めるからねっ!」
…5年前に二つ違いの兄を自殺で亡くした。兄も優しい気持ちの持ち主だった…そして自分を追い込んで…でも、決して悲観して命を絶ったのでは無い!私はそう思っている。
「中々眠れない!」と、こぼした事が有ったので、ただ、ぐっすり眠りたかったのだ、と…
なので、後に残された者の悲しみ、それを通り越した痛み、何もしてあげられなかったと言う後悔など…色んな物が入り混じって暫くの間、陰に籠っていた。
…普段の何もかもが憎く感じられた事もあった。
だから私には、彼女の行動に本気で憤りを感じていた。
「本気で言ってるんだからねっ!もう、こんな事するのは止めてよっ!本当に絶交だからね!」
「うん、わかった!友達辞められるの嫌だからねっ!」
その場はこう言って受話器を置いたのだが…
九州へ帰る前に、気になったので彼女に電話したのだが、義理の母親が受話器に出られ
「今、電話に出られる状態じゃないので…」と、言われ「では、明日から3日間九州へ帰っている事を伝えて欲しい。」旨を伝えた。
それから2日後のことだった。
「私が九州に帰っている事は彼女は知っていますか?」
多分、母親が近くに居るのでしょう、何か聞いている様子で…受話器に母親が出られ、「済みません、ただの友人かと思って何も告げていなっかったんです。それに、その時は言える状態じゃなかったし…」との事だった。
予定を一日早めて京都のアパート(太秦)では無く、役宅(6条高倉)へ行った。…そこには下宿している従兄弟がいたので、変わった事無かったか聞いてみた。
「そう言えば、二日前だったかなぁ、
門の前にず~と、佇んでいる女の人がいたので声を掛けてみたんだけど、ただボ~ぉとして何も答えなかった。」
すぐさまあたりを探してみたのだが…二日も前の事で居る筈もなかった。
その事をご主人に連絡して、アパートで会う事にした。
…アパートに着くと、暫くしてご主人とその弟さんが来られ、詳しい話を聞いてみた。
その日も義理の母が彼女の様子を見ていたらしいのだが、お客さんが来たのでその相手をしていたほんの数分の間に居なくなったとの事。普通のトレーナーにジーパンとサンダルと言った軽装だった。
「妻の事はお聞きになったとの事で、後で妻が言ったました。」
「はい、伺いました。」
「そうですか…妻は自分の事は人に話さないのですが、よっぽどあなたの事を信用していたんですね。」
「…、前に亡くなったお母さんの事で気落ちされていたんですが、その時に知り合いのお寺の説法を一緒に聞きに行った事が有るんですよ。」…他にも色々とあったのだが、長くなるので省略します。
「妻は、いなくなった翌日にあなたが居るかも知れないと、役宅に行ってたんですね。」
「はい、従兄弟が彼女らしい女性がいたと言ってましたから…」
…彼女は嵯峨野にあるご主人の実家から、途中何処かで一泊して、役宅がある六条高倉までサンダル履きのまま歩いてきたんだ。それも、はさみで刺した足を引きずって…
「そうですか、その日、妻を見たと言う連絡があって長岡京まで行ってたんですが…デマだったんですね。直ぐにあなたの役宅へ行けばよかった…」
…デマに振り回された自分を振りかえって、悔しそうにそうつぶやいていた。
それから幾度となく彼女の捜索に関して、打ち合わせをする為にご主人の実家を訪れた。