2009年4月8日水曜日

・・・彼女の一生とは?

 ***捜索編(完結編)***


 翌日から捜索を開始した…と言っても、仕事の合間になるのだが。

彼女の実家の川崎より、直ぐ下の妹と末の弟が京都に来て、一緒に捜索をする事となった。


 嵯峨野の家で彼女の兄弟達と初めて会ったのだが、そこの家では親戚たちの来訪で泊める部屋が無いらしく、六条の役宅の方で預かる事にした。

 その日の夜、彼女たちを二階に案内して布団の用意をしていると、


「この下に姉は佇んでいたんですね?」…と、妹は開けられていた窓の外枠の手すりにもたれて、ポツリとそう言った。

「そう…」布団をカバーに入れながら答えた。 


 翌朝、捜索するにも、車を持ち合わせていなかったのでレンタカーを借りる事にした。
で、最初に何処を探せば?


…前に「東本願寺に迫撃砲を打つ!」と言う、脅迫電話を受け取った事が有った。…その折にお世話になった刑事さんに会って、どう言うところを探せば良いのか教えを仰ごうと思って七条署へ行った。


 その折の刑事さんはいたのだが、「自分で行方を眩ませたのだったら、見つかる可能性は低いだろう。」と、初っ端から落胆するお言葉が…ただ、「町中だったら不審者の通報があるかも知れないが、誰も居ないところを探して、そこに居る可能性が多分にある。」との助言は有った。


 そこで、山を探そうと将軍塚に行った。…闇雲に探しても見つかる可能性は低い事は知っていたが、他にどうしようもなくただただ、探し回った。


 途中、何軒かの駐在所で、写真入りのビラを(ご主人より数枚ほど貰っていた)見せ、説明して貼って貰う様にお願いした。


 その日の夕方、ご主人から連絡が有り「桂の喫茶店でそれらしい女性が働いていた。」との通報が有り、今から向かうのであなた達も一緒に来てくれ!…との事だった。


 待ち合わせて、一緒に桂まで行ったのだが…その喫茶店にはそれらしい人物もいなかったし、お店の人に聞いてみたが、「知らない!」と言う。


…ガセだった。ご主人や彼女の兄弟の落胆ぶりを見てると、面白半分で勝手な事を通報している輩の心情はどうなっているのか、憤りを感じた。


 役宅に着いて、一息ついてから彼女の思い出話しをはじめた。

「お姉ちゃんはもっと幸せになっていい人なのに…」妹さんがこう言うと、
「姉は自分の事よりも、僕らの事ばかり気にしていて…結婚してからもそうだった。」と、弟さん。
「幸せになるのが怖かったのか、何処かセーブしていたところが有ったよね…」
「僕は、姉から育ててもらったんだ…そう言っても過言じゃない。」
「結婚したんだから…お姉ちゃんには幸せになって欲しかった。」


 …彼女は、昔の自分の心が、苛められていた時に『あなた達なんか不幸になっちゃえばいいんだ』と、思った心が自分で自分を許せない…だから『自分は幸せになんかなっちゃいけないんだ』と、思い込んでいるようなところがある。


 翌日、“ひと気を避けて留まる場所”のキーワードから、お宮の祠やお寺の床下などを探し回った。
がしかし、やはり当てずっぽうで探し出せる訳はなく、その日も時間が過ぎて行っただけだった。

…結局何の成果もなく、妹さん達の滞在期間の4日間が過ぎ、川崎に帰る事となった。

 軽装で足も負傷して、いったい何処に居るのか、生死も分からない…この気持ちの状態を引きずって帰さなければならないジレンマが、どうしようもなくもどかしかった。

   あれから20年余り…未だに彼女の行方は不明のままだ。

…そう言えば、彼女の愛読書の『青い鳥』…預かったままだった。

     ・・・・・・・・・・・・もう、返せないよ・・・・・・・・・・・・・

2 件のコメント:

  1. 今も行方不明。。。音信通なのではなくて、今も彼女の家族もどこにいるかわからないと言うことなのですか?!

    私は、人は皆大なり小なりいろんなことがあって、平等に楽しいこと、嬉しいこと、哀しいこと、辛いことがあると思っているのですが、そうではないのかな。。。と考えさせられます。

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  2. めぐさん、

    コメント有難うございます。
    私も平等に与えられていると思いますよ。
    …ただ、彼女の場合は自ら進んで?幸せへのセーブをしたんだと思います。
    どうしても、幼い時に思った事が…自分で自分を許せなかったのでしょう。
    彼女は人に優しく、自分に厳しい人でしたから…それ故にいつまでも引きずっていたのでしょうね。

    彼女を思い出す時は、いつも人懐っこいニコニコ顔です。…傍から見ると、あんな壮絶な過去を持っていたなんて事は、絶対想像つきませんね。

    彼女の人生とは?…過酷な言い方ですが、彼女が望んだ人生ならばそれで良かったのかな?と、…そう思わなければ、あまりにも彼女が可哀そう過ぎますものね。

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